真冬のミステリー
みなさんは金縛りになったことはありますか?
寝てる時に急になる、体を動かすことはおろか、
声を出すこともままならないっていうアレです。
私は若い頃に、金縛りになったことがあるという知人から、
天井から誰かが見ていただの、足下に誰かが立っていただの、
色んな話を聞かされたことがあります。
ピュアだった私は、
「そっ、そんなことあるわけないじゃないかぁ…。あはははは…」と強がりながらも、
夜になると「怖いな怖いなぁ…。やだなやだなぁ…」とブルブルしていたことを思い出します。
なったら怖いという、そんな不安感と、
ちょっとなってみたいという、矛盾した期待感を抱えながら、
結局、未経験のまま、年月だけが経っていました。
「二十歳になるまでに一度もならなかったら、これから先、一生金縛りにはならない…」
誰が言ったか、そんな噂話を聞いたこともありましたが、
その大きな山場も難なくすり抜けて、少年から大人になってしまった私の中で、
いつしか、金縛りという存在自体も、記憶の彼方に消え去っていたのです。
そう…、あの夜までは…。
その夜は、部屋の中にいるのに、息が白くなるような、とても寒い夜でした。
眠りについてから、どれくらいの時間が経ったのでしょうか。
あまりの寒さに目を覚ました私は、ふと何か異変を感じていました…。
「かっ…、体が動かない…」
意識ははっきりしているのに、体を動かすことも、声を出すこともできない…。
これがあの金縛りか…。
しかし、長い年月を経て、すっかりピュアではなくなっていた私は、
「金縛りぃ? ないない。ちょっと体が疲れてるだけでしょ? しばらくすれば、動くようになるよね?」
体が動かないくせに、まだ何とか余裕があった私。
しかし、そんな私をあざ笑うかのように事件は起きたのです…。
「ドスン…」
鈍い音とともに、何かが足の上に落ちたような重みを感じました。
「えっ?」
確かに何か乗っているのを感じる…。
意識ははっきりしているので、それが夢じゃないのも分かっていました…。
「やばいよ…やばいよ…」
さっきまでの余裕が嘘のように、焦りだしていた私に、追い打ちをかけるように、
「ドスン…」
また鈍い音とともに、今度は胸の上あたりに、何かの重みを感じました。
すっかり涙目の私。このままではヤバイ…。
なんとか金縛りを解かなければ…。
「動け…。動け…」
体をねじまげたり、大声を出そうとしたり、長いあいだ格闘していました。
でも、なかなか解けずに、ちょっとあきらめかけていましたが、
最後にありったけの力を込めたその瞬間、ふっと、急に体が自由になったのです。
「とっ、解けたぁ…」
でも、まだ安心はできません。
体の上の重みは、いまだに残っていたからです。
その正体をつきとめるべく、すぐさま、首を持ち上げ、体の方を見てみると…
…
…
…
ウチの愛猫が、2匹並んで私の体の上を占領していましたぁ!
「あぁーーーーーーーーーーーーーーーっ」
あまりの可愛さに、声にならない叫び声をあげた私を、柔らかな朝の光がそっと包み込みました。
「終わった…。何もかも…」
しかし、まだ本当の恐怖の時間は終わっていなかったのです…。
「あっ、あの、お二人…すみません…。おっ…、おトイレに行かせてください…」
ぐっすり眠って、てこでも動きそうにないお二人と、焦る私…。
「おっ、おトイレ………」
たておでした…。