私は,鉄道車両の中ではディーゼルカー(気動車)が最も好きである。
なかでも,オレンジとクリーム色の2色に塗り分けられたキハ20と呼ばれるディーゼルカーが大好きだ。
かつては日本のあちこちで走っていたこのタイプのディーゼルカーも, 今ではほとんど見ることができなくなってしまった。
千葉県にいすみ鉄道という私鉄がある。
房総半島の東側,外房線の大原駅から上総中野(かずさなかの)駅までを結ぶ路線。
かつては国鉄木原線として営業していた。
1987年から第3セクター「いすみ鉄道」として営業を開始。
利用者は少なく,存廃問題が議論されてきたが, 民間から社長を公募し,駅名にネーミングライツを募集するなどの再建策に取り組み, 2010年に路線の存続が決定され,現在に至っている。
社長に就任した鳥塚亮氏は, いすみ鉄道の知名度を上げるためにさまざまな改革をおこなってきた。
ムーミン列車を走らせ女性客を取り込み, キハ52などの旧国鉄時代の車両を購入して鉄道ファンを喜ばせた。
レストラン・キハと呼ばれるレストラン列車を走らせ, 赤字の縮小と地域の活性化に取り組んだ。
新車をオレンジとクリーム色のツートンカラーに塗り, キハ20として走らせてくれてもいる。
いすみ鉄道を走るディーゼルカーに乗りたい。
そして,ようやくその日がやってきた。
2018年7月1日(日)。
朝の両国駅に私と家内はいた。
今回のいすみ鉄道の旅は,総武線両国駅からスタートする。
両国駅には,総武線の歴史を振り返る展示スペースがある。
前日に両国入りしていた私たちは,昨日のうちに見学を済ませた。
かつては総武線の始発駅だった両国駅。
急行天国だった房総半島の国鉄時代の歴史を眺めることができて大満足だった。
私たちは総武線・外房線に乗って,大原駅へ向かう。
両国から普通に乗り,次の錦糸町で津田沼行き快速に乗り換えた。
津田沼で千葉行きの快速へ乗り継いで千葉へ。
千葉で外房線の電車に乗り,2駅目の蘇我でまた乗り換え。
蘇我では京葉線と接続しており,
東京から京葉線経由でやってくる特急わかしお5号安房鴨川行に乗り込んだ。
蘇我10:33発。
目指す大原は11:17着だから,44分の房総特急の旅だ。
途中の停車駅は、大網、茂原、上総一ノ宮。
わかしお5号は10両編成だが,上総一ノ宮で後ろ5両が切り離された。
5両編成と身軽になったわかしお5号は,
房総半島の東側に延びる外房線を快調に走り,
時刻通りに大原駅に着いた。
【外房線大原駅に着いたわかしお5号】
改札を出ると,構内にいすみ鉄道の入り口があった。
駅前に出ると,小さなロータリーがあって,タクシーが2台ほど待っていた。
いすみ鉄道の切符売り場にはグッズ売り場が併設されていた。
グッズは帰りに購入するとして,まずは切符の購入。
切符売り場には自動販売機もあるが,
係のおばちゃんが「どちらまでですか」と声を掛けてくれる。
「上総中野まで行って,戻ってきたいんですけど」というと,
一日フリー乗車券がお得とのこと。
勧められるままに一日フリー乗車券を購入した。
私たちが乗る予定の列車は急行で,
急行券300円が別途必要とのことなのだが,
一日フリー乗車券には急行料金も含まれているとのこと。
ただ,硬券の急行券を販売していた,記念に購入した。
ついでに硬券の大原駅の入場券も購入した。
【一日フリー乗車券】
【硬券の急行券と入場券】
【JR外房線のホームから見たいすみ鉄道の大原駅】
【いすみ鉄道・大原駅の改札口】
改札前でしばらく待っていると,11時38分に車両が入線してきた。
列車番号102D「急行2号」として,大原駅まで走ってきたのだ。
キハ52とキハ28の2両編成だ。
【大原駅に停車したキハ28】
うちキハ28はレストラン・キハとして使われていて,予約客でいっぱいだった。
レストランの利用は,途中の大多喜(おおたき)から大原,
折り返して上総中野、さらに折り返して大多喜までとなっている。
私たち一般客は,キハ52に乗り込む。
改札はホームで行われる。
サポーターと呼ばれる黄色いポロシャツを着たおばちゃんに一日フリー乗車券を見せ,
記念で購入した急行券と入場券にもパンチを入れてもらった。
切符にパンチをいれてもらうなんて何十年ぶりのことだろう。
キハ52の車内へ。
このキハ52は,大糸線で走っていた車両だそうだ。
【車内には大糸線の路線図が残されていた】
せっかくなのでクロスシートをふたりで占領。
硬めのシートが懐かしい。
窓の下には小さなテーブル。
そして,テーブルの下にはせんぬきが。
ついてましたね,せんぬき。
乗客はほとんどが鉄道ファンと見られる人たち。
中には制服を着た女子中学生もいた。
地域の足としても使われているのだろう。
列車番号103D「急行3号」は,定刻の11時48分に大原駅を発車した。
ディーゼルカーはディーゼルエンジンを動力している。
電車のようにスムーズな発車ではない。
ウーン・・・とエンジンがうなりを上げてから動き出す。
この瞬間がディーゼルカー好きにはたまらない。
列車が動き出すと,まもなく車内放送が始まった。
車内放送の始めと終わりに流れる音楽がまた懐かしい。
私たちが乗った列車は急行ではあるが,スピードは出ない。
並行している道路を走る車にどんどん追い越されていく。
もちろん,何の不満もない。
のんびりと里山を走るディーゼルカー。
むしろさらにスピードを下げて,いつまでも乗せてほしいと思うくらいだ。
列車は西大原を通過して,最初の停車駅,上総東へ。11時58分発。
新田野を通過して,12時4分国吉着。
10分間停車する。
国吉駅で,大原行きの普通列車と交換。
普通列車はキハ20が使われていた。
1両編成であった。
いいなぁ,キハ20。
【国吉駅で見かけたキハ20】
【私たちが乗ったキハ52。国吉駅にて】
【国吉駅から上総中野方面を望む。】
キハ20大原行きを見送って,12時14分国吉発。
上総中川を通過して,城見ヶ丘に停車し,12時26分大多喜に着いた。
ここでも10分停車する。
【大多喜駅のホーム】
大多喜駅を出ると,駅前にバス停がある。
東京や品川行きの高速バスも出ているとのこと。
いすみ鉄道の車両基地も大多喜にあった。
ムーミン列車やキハ30が止まっていた。
【大多喜駅にいたムーミン列車】
【大多喜駅にいたキハ30】
キハ30は,車でいうところの車検をパスしていないらしく,
線路上を走ることはできないらしい。
大多喜12時36分発。
ここから列車は急行から普通列車に代わる。
小谷松,東総元,久我原,総元,西畑と各駅に小刻みに停車し,
終点の上総中野に13時00分ちょうどに着いた。
大原を出て1時間12分の旅だ。
営業距離は26.8kmなので,まあのんびりした鉄道旅である。
【終点・上総中野駅】
【上総中野駅の先にある車止め標識】
【上総中野駅で記念撮影】
上総中野では,小湊鉄道と接続している。
小湊鉄道は,上総中野と内房線の五井を結ぶ路線。
いすみ鉄道と小湊鉄道を乗り継げば,房総半島を横断できる。
今回は,便数の少ない小湊鉄道に適当な時刻の列車がなかったため,
房総半島横断は断念して,いすみ鉄道にて再び大原を目指した。
上総中野に到着して10分後の13時10分,
折り返しの列車は大原を目指して発車した。
帰りも途中の大多喜までは普通列車。
各駅に停まる。
乗客は,行きよりも減っていた。
行きの列車でいっしょだった人たちはどこに行ったのだろう。
【時代を感じさせる扇風機にはJR西日本の文字が】
【中吊り広告も昭和感が漂う】
13時32分大多喜着。
ここで,レストラン・キハは営業終了。
ランチを召し上がっていた乗客は一斉に降りた。
きょうのメニューはイタリアンだったようだ。
片付けも一斉におこなわれ,食器類が列車から降ろされた。
乗客はおもいおもいの場所で写真を撮っていた。
【大多喜駅で最後の撮影タイム。キハ28とキハ52も撮り収め】
【大多喜駅のコンコースにいたねこの親子】
大多喜では15分停車して,13時47分に発車。
ここからは列車番号104D「急行4号」となる。
このときはもう乗客は10人もいなかった。
私たちは,1人で1ボックスを独占し,窓を開けて車内に風を誘った。
ところどころで撮り鉄さんたちが,カメラを私たちに向けていた。
国吉ではまた15分停車。
車内販売のポップコーンとホームでアイスを買った。
14時14分国吉発。
上総東に停車して,14時30分大原に戻ってきた。
私たちが乗った列車は,再び折り返しの急行5号として,14時40分に大原を発つ。
大原に着いた私たちは,構内のグッズ売り場を眺めた。
クリアファイル2枚と,キハカレーを3個買った。
往復2時間42分のディーゼルカーの旅。
好天にも恵まれ,記憶に残る旅行となった。
さまざまな取り組みによって,
利用客の少ない鉄道を残していこうと尽力してきたいすみ鉄道。
陣頭指揮を執ってきた鳥塚亮氏は,9年間務めた社長を退任した。
今後は,いすみ市から任命された「いすみ大使」として,
主に観光アドバイザーを担われるとのこと。
ローカル線を運賃収入だけでなく,
地域全体を盛り上げるひとつのツールとして活用した鳥塚氏。
いすみ鉄道の地域への経済効果は直近3年間で十数億円に上ったらしい。
いすみ鉄道に倣って,
赤字だからとローカル線を廃止するだけでなく,
有効利用して存続させるしくみを各地でつくってほしい。
ローカル線を,地方の良さを,アピールしてもらいたいものだ。
そして私は,これからも全国各地のローカル線を乗りつぶしていきたい。
ローカル線乗り鉄のひとりとして。
【大原駅の構外にて】
【いすみ鉄道の時刻表】